300有余年、悠久の歴史を越えて続く酢屋。
鈴木(AuB) AuBでは2025年7月におなかによい食品を集めたセレクトブランド「aub food pantry(オーブ フードパントリー)」を立ち上げました。その第一弾として腸内環境によい調味料「さしすせそ」を探してきたのですが、どうしても“酢”だけがなかなか見つからなかった——そんな中、開発メンバーから情報を受けて知ったのが庄分酢さん。2025年春、展示会で“蔵付酢酸”と記されたラベルを見て、これだ!と確信した社員がすぐに私に話してくれました。
高橋(庄分酢) 私もあの展示会にはいたんですが、商談が詰まっていてブースに出られなかったんです。後日、「腸活の会社がブースに来ていた」と社員から聞き、そこからご縁がつながりましたね。

鈴木 調べれば調べるほど「これほどの思いを懸けて酢づくりをされているのか」と。歴史、そしてその背景にある想いと技術に圧倒されましたし、「にごり酢?」「酢酸菌が生きている?」と興味が湧いて、すぐに調べました。そこからYouTubeで庄分酢さんの動画を見て「これは一度話したい」って。まず驚いたのはその歴史。江戸初期の1711年創業。300年以上の歴史があるんですよね。


高橋 私は15代目にあたるんですが、1624年に米と水に恵まれた筑後平野へ先祖が移住して、酒づくりを始めたようです。そこから約100年後、1711年(江戸初期)に4代目が酢づくりを始めたと記録されています。
鈴木 最初から酢づくりをしていたわけではないんですね。
高橋 そうなんです。江戸時代には衛生面の設備が不十分だったこともあり、汚染された菌を酒蔵に持ち込むと“火落ち(=酒が腐敗してしまうこと)”といって、お酒づくりそのものをダメにしてしまう。当時は火落ちさせてしまい、廃業を余儀なくされる酒蔵もあったと言われるほどです。記録は残っていないので事実関係はわからないのですが、わざわざ当時の政府から認証をもらってまで始めた酒づくりから酢づくりへ事業を変えたのは、そういった背景が関係していたのかもしれません。

鈴木 もしかしたら誰かが菌を持ち込んで駄目にしてしまった、それで酢づくりに転身せざるを得なかったのかもしれない、ということですね。 一子相伝で、代々製法が受け継がれていると伺いました。そういった伝統は現代までどのようにして継承されてきたのでしょうか?

高橋 北斗神拳みたいですよね(笑)。酢の製法を記した巻物が残っていまして、長男にしか見せてはいけないという決まりになっています。巻物には「子々孫々継ぐもの以外、見せるべからず」と書かれていまして、代々紡がれてきた酢の製法が記されていますが、私自身も長男でありながら、まだ全文は読めていません。
鈴木 一子相伝の巻物…すごいですね。じゃあ兄弟でも見られない?
高橋 そうですね、見られません。もちろん現場の製法としては受け継がれているのですが、大枠の作り方は変えていないです。まさにシンボル的な存在です。
鈴木 ロマンがありますね。ご自身が社長として受け継がれる際は、どういった思いだったんですか?
高橋 高橋家では、代々「清」もしくは「精」の字を名前として受け継ぐことになっています。これは酒づくり、酢づくりに「水」と「米」は欠かせないということからいずれかの一文字を受け継がれているんです。だから私も幼い頃から跡継ぎとしてやっていくんだろうと思っていましたし、父(現 会長)が誰かに酢の説明をする姿を横で見てきて、言葉の端々から「酢づくり」に懸ける思いは感じてきました。

100倍の時間を掛けて仕上げる。“濁り”の力を現代に蘇らせる伝統製法。
鈴木 よくスーパーなどで置いてあるお酢と比べて、「おなかのための甕仕込みにごり酢」のわかりやすい違いはどういうところにあるんでしょうか?
高橋 まずこれは、いわゆる「濁り酢」といって、濁りの正体は「酢酸菌」です。「濁り酢」という言葉は、実は最近5-6年で出てきた言葉で、昨今では濾過して濁りを取り除くことが一般的だとされています。300年前の庄分酢では珪藻土濾過そのものが存在しなかったので、濾過せずに酢を作っていました。しかし、近代化が進む中で、濁っていることがクレームの対象になったり、腐っていると思われるようになったことから、徐々に濾過されていくようになりました。

鈴木 そういう経緯があったんですね。にごり酢である「かすみくろ酢」を販売されたのは2019年ごろですよね。
高橋 はい、時代の流れで濾過することが当たり前になりながらも、私たちは、昔ながらの魅力を再現したいと考えていました。そんなときに、世の中で濁りの正体でもある「酢酸菌」の魅力が話題になり始め、いろんなニュースで取り上げられるようになるのを見て、「やっぱり!そらみたことか!」と思いました(笑)。

鈴木 酢酸菌の働きはいろんなところで語られていますよね。私がまず驚いたのは味です。サラダにかけて食べる、これだけでこんなにおいしいのかと驚きました。具体的にどういう過程でつくられるんでしょうか?
高橋 伝統的な静置発酵(せいちはっこう)という製法を採用しています。スーパーに並ぶ酢の多くは、大手メーカーさんであれば機械を使って1日で作れますが、うちの酢づくりは丸100日掛かります。もちろん、大量にまとめて作るほうがコストも下げられますし、安く市場に供給できる。ただ、庄分酢ではゆっくり発酵させたほうが原料の栄養分が香りやまろやかな酸味に繋がると考え、この静置発酵にこだわっています。

鈴木 私たちが普段見かける酢とは作り方が全く違う?
高橋 そうですね。近代では金魚鉢のようなタンクに下からモーターで空気を入れ、強制的にお酢の仕込み液に酸素を入れ、早く発酵させます。それに対して、私たちは「甕(かめ)」で仕込むんです。静置発酵の場合は、液の表面に菌膜が張って、甕の中のお酒を少しずつ酢酸に変えていく、それを静かに待つのが静置発酵です。

鈴木 大きい甕ですね。甕で仕込むというのはどういう理由があるのでしょうか?
高橋 うちの場合は、菌が甕で仕込まれるのに慣れている、というのがありますね。酢づくりには「アルコール発酵」と「酢酸発酵」の2種類の発酵が必要なんですが、それぞれ好きな温度が違う。アルコールは涼しいところ(例:東北の日本酒)、酢はあたたかいところ(例:鹿児島の黒酢、イタリアのバルサミコ酢など)が好きな傾向があります。
鈴木 甕が半分地面に埋まっているように見えるのですが?
高橋 300年前の先祖が試行錯誤を重ね考えた結果、大甕を半分地下に埋める、という現在の作り方に行き着きました。甕を半分地下に埋めることで、甕の中で温度差をつくるんです。地面に埋まった地下の部分は涼しく、日が当たる上の部分は温かい。こうすることで、丸い甕の中で温度差をつくり、対流を生む(アルコールは比重が軽いので自然と上に上がっていく、酢酸は比重が重く自然と下に溜まっていく)。さらには甕の内側はデコボコしていて、菌が住み着きやすい空間になっている。昔ながらではありつつも、理にかなった製法なんです。

鈴木 紙の蓋に文字が書かれていますよね。あの蓋にもちゃんと意味があるのでしょうか?

高橋 プラスチックの蓋では中に空気が入らず、酸欠状態になってしまうんです。紙の蓋であれば空気の透過性を保つため、呼吸をしながら発酵を支えてくれる。
鈴木 なるほど、たしかにこれを大量生産しようとすると大変そうですね。
高橋 そうですね、正直言ってこの製法はとても手間が掛かるんです。大量生産しようとすると、とてもじゃないがそんな手間は掛けられないと思います。そこは市販の商品との大きな違いですね。いろんな選択肢があって、いろんな良し悪しがあり、いろんなお酢を選べるようになるといいなと思います。
歴史、伝統、品質を守る、造り手たち。
鈴木 通常に比べてかなり手間を掛けてつくられているということですが、日々の管理はどのように行っているんでしょうか?
高橋 酢づくりは4人体制で行っています。酢づくりは酒づくりに比べて「おおらか」だなと思っています。たとえば吟醸酒の場合ですと、厳格に時間管理も行いますし、慌ただしい。わたしたちの酢づくりは、できあがるまでに100日も掛かる上に、発酵もゆっくりです。だからなのか蔵の雰囲気もどことなくのんびりしている感覚があります。暑い日は窓を開けに行きますし、寒かったら人間でいうところのブランケットを掛けてから帰ったりする。毎日少しずつしかできないですが、人間の世話に似ているんですよね。



鈴木 本当に「子育て」みたいですね。造り手さんたちには、どういう方々がいらっしゃるんでしょうか?
高橋 20代から50代まで幅広い層がいます。嬉しい話があって、以前の製造責任者の親類がまた職人として働いてくれているんですよね。私のような跡継ぎだけが交代していくのではなく、造り手も同じように交代していく必要があるだろうと考えています。

鈴木 それほどまでにこだわりを持ってつくられた商品ですが、OEM商品として展開するのは庄分酢さんの長い歴史の中でも初めてのことと伺いました。なぜその決断をいただくに至ったのでしょうか?

高橋 正直迷いはありました。きちんと品質管理をしていただけるだろうか。酢づくりの心臓部分である「蔵付きの菌」を外に出してもいいのか。代々酢づくりをやってきた先祖の思いなども考えると、本当に悩みました。一方、自分たちのこだわりや商品の魅力をより広く伝えられて、発酵業界全体に活力が出るなら、とも思っていました。
5年近く「にごり酢」を販売してきて、良いものができた自負があったし、品質管理にも自信が持てるようになってきた。そんなときに、ちょうど展示会での出会いがあった、これはとてもタイミングがよかったのだと思います。もし1年早くお会いしていてもお断りしていた。そして何より大きかったのは直接私たちの蔵まで足を運んでいただいたこと。自分たちのモノづくりの思いや歴史、製造工程、などを五感で感じていただいた。この人たちなら大丈夫かもしれない。これが決め手でした。
日本の発酵文化の未来
鈴木 発酵や菌の注目度が年々高まっているようにも思います。300年以上、発酵や菌に携わってこられた庄分酢さんとしては、こういった世の中の流れはどう感じられていますか?
高橋 まあ、やっぱり正直に言うと「ほら見たことか!」という気持ちはありますね(笑)。酢の歴史は紀元前5000年からと言われていて、7000年近く人類が使用してきたもの。人類が初めて手を使って作った調味料とも言われています。酢の持つ力が、いろんな歴史を経て、原点に戻ってきたような認識でいます。
鈴木 歴史と伝統をこれからも継承されていく、ということですね。高橋社長はどういう思いで今後の酢づくりを考えていますか?
高橋 絶対に変えてはいけないもの、変えていかなくてはいけないもの、どちらもある。「味はイマイチだけど、これまでの伝統を守らなくちゃいけないからこの製法を続ける」といったことはしたくない。伝統を守りたいからやるのではなく、味がよいもの・身体によいものをつくるために、続けていきたい。

私たちの製法は本当に手間がかかる。冬は寒いし、夏は暑いし、めんどくさいし、時間もかかる。それでもおいしいものをお届けしたい。酢づくりの製法やレシピ、根幹の部分は変えずに、自分たちの魅力をどう伝えるか、どう見せていくか、そういったことは時代にあわせてどんどん変えていきたいと思っています。


鈴木 本日はありがとうございました。aubでは「すべての人を、ベストコンディションに。」をミッションとして掲げ、日本の食文化の素晴らしさ、そして造り手の想いを未来に再接続していきます。

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